SSブログ

チャップリンの遺言再録 [映画・文学・音楽]

 昨日(6/4)は、曳舟まで出かけて、久しぶりに仕事の打ち合わせをしてきました。古稀を過ぎてもうあまりあくせくしたくないので、知り合いまたは知り合いからの紹介以外は断るようにしているのですが、これがなかなか一筋縄ではいきません。ま、引き受けてしまった以上はやるしかないでしょう。質の問題はともかくとして、長年フリーでやってきて、一度も締め切りに遅れたことがないというのが、私のささやかな自慢なので、今回もこれだけは途切れないようにしたい。(^-^)

 昨日のブログに続いて、映画の話。
 オリラジ中田アッちゃんが、チャップリンの「独裁者」を見ていなかったことが、話題になっているとうちの奥様から聞いた。以前、この映画の感想を書いたので少し加筆して再録したい。安倍ちゃんにはぜひとも見てもらいたい映画なのだが、自宅でくつろぐのに忙しいようなのでみている暇はないんだろうなぁ。また、見たとしても理解は出来ないんだろうなあ。(^^;
チャップリン.jpg
 チャップリンの映画を久しぶりに、それも2作連続で見てみた。
 私がチャップリンの映画でいちばん好きなのは「モダンタイムスModern Times」と「街の灯City Lights」(見たときのこちらの気分でどちらかが1位)なのだが、今回はそれよりはちょっと落ちるが十分に名作と言えるこの2作。「独裁者」は1940年、「ライムライト」は1952年の作品である。

「独裁者The Great Dictator」
 中学生のとき劇場で見たが、スカラ座だったか名宝文化だったか覚えがない。冒頭の戦場シーンでは大笑いしたものだ。飛行機のシーンなど、ドリフターズが何度も盗用して笑いをとっていたことでもレベルの高さがわかる(ネタバレしないように書いている)。砲弾との走りっこや高射砲でのぐるぐる動きなど、喜劇人(なぜかMacの変換では「木激甚」と変換される(^^;)として参考になると思うのだが、どうだろう。実際、チャップリン映画のセンチメンタルの代表作のように言われている「街の灯」にしても、大金持ちのヨッパライが、「一夜明けると別人だった」という落差の展開、ボクシングシーンでのチャップリンの動きなどお笑い芸人にはとても参考になるはずだ。
 チャップリン初のトーキーで、トーキー嫌いだったチャップリンが、しゃべりにしゃべったラストの名演説は映画史に残るものだし(そのためにトーキーで撮ったという噂もある)、椅子の上げ下げや地球風船など笑える場面もあるし(ネタバレしないように書いている)、1940年というあの時代にこういう映画をつくったという勇気はそれだけでも賞賛されてよい。ただ、最初に見た当時、こちらは生意気盛りの若者。メッセージ性が強すぎる、演説の中身は悪くないのだが語るのではなくもっと映像で押すことはできなかったのだろうか、なんて上から目線で思ったものだ。
 もちろん、映画は映画でのみ評価されるべきで、その政治性、テーマ性などで評価されるべきではないと思っているので、今もそういう気持ちが全くないというわけではないのだが、それよりも、チャップリンの演説が現代にも十分通用することに驚いた。本当にアメリカ、北朝鮮、そして日本のお偉いさんに聞いてもらいたいものだ。日本の独裁者とそのご夫人が「DESTINY 鎌倉ものがたり」という映画を見に行ったという記事を読んだが、このバカップル、チャップリンの「独裁者」は見たこともないだろうし、これからも絶対に見ないんだろうなあ。いや、こういう映画があることすら知らないんだろうな(「云々」を「でんでん」と読むおっさんと、乱痴気騒ぎの半裸写真をネットにあげるおばさんなので、まあ常識はないと推測。間違ってはいないと思う)。

「ライムライトLimelight」
 リバイバル上映されたのが東京に出てきてからのものなので、劇場で見た記憶があるのだが、池袋だったかどこだったかこれもよく覚えていない。ある時期にこの「ライムライト」「モダンタイムス」「街の灯」など連続して劇場で見た記憶があるので、チャップリン週間とかチャップリン・フェスティバルのようなものがあったのかもしれない。いずれにしても「ライムライト」は、映画の宣伝のためにチャップリンがイギリスに渡る船の中で「国外追放」になるという曰く付きの作品である。もちろんマッカーシーズムによる「赤狩り」にひっかかったわけだ。現在のトランプといい、20世紀初頭の禁酒法といい、拳銃・ライフルなどが簡単に買える(いつまで西部劇なんだ(^^;)などアメリカという国はどこか変なところがある。そうした「危険」を察知していてチャップリンはこの映画を作ったのだろうか。主人公の老喜劇役者はどう見てもチャップリンそのものである。マッカーシーの反共の嵐が吹き荒れる中、徹底的に自分に同情が集まるように作られていて、私は山高帽もちょび髭もなしで主演映画を作ったチャップリンの映画人としての「したたかさ」に感心したものである。
 もう1つ今回久しぶりに見て感じたことは、若いころはもっと「乾いた笑い」が好きで、チャップリンもおもしろいのだがどうも人情的な御涙頂戴的なところがつまらないなあと思ったものなのだが、今回、それを全く感じなかったことだ。「独裁者」の演説シーンはネットに動画があがっていたので下にリンクを貼っておくが、感動して聞くことができた。
 「ライムライト」にも名台詞があふれている。「There’s something just as inevitable as death. And that’s life(死と同じように避けられないことがある。それは、生きることだ)」「人生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しのお金だ」。さすがサイレント(の字幕)で鍛えられた人だけのことはある。こういう台詞は若いころなら反発したのだろうが、古希を過ぎた今は素直に、その通りだなあ、と聞くことができる。
 映画は色あせないが(あ、白黒映画に色はないか(^^;)、こちらは歳をとったのだ。

 「ライムライト」以降の作品としては、「ニューヨークの王様」と「伯爵夫人」を見ている。「ニューヨークの王様」は退屈な作品だったし、「伯爵夫人」はソフィア・ローレン、マーロン・ブランドの2人がメインでチャップリンは、かつてのヒッチコックよろしくワンカット出演しているが、これもどうこう言うような作品ではない。
 こう考えてくると1925年の「黄金狂時代」から1931年「街の灯」、1936年「モダン・タイムス」、1940年「独裁者」、1952年「ライムライト」までが(私が見た作品に限れば)チャップリンの時代だったと思う。その意味では、「ライムライト」はチャップリンの遺言だったと言える。だから、今でもこの作品を見ると、「死と同じように避けられないことがある。それは、生きることだ」と言われているような気がするのかもしれない。

↓「独裁者」での伝説の名演説(字幕)
https://www.youtube.com/watch?v=biAAmqaMCvo
↓「独裁者」全編(英語)
https://www.youtube.com/watch?v=78bYriDPUww
↓「ライムライト」テリーのテーマ
https://www.youtube.com/watch?v=GrXnI6c9-kU
nice!(9)  コメント(7) 
共通テーマ:日記・雑感