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異色の戦争映画「太平洋奇跡の作戦キスカ」 [映画・文学・音楽]

 なんだかんだとあった8月も今日でおしまい。

 最近、wildさんとのやりとりの中で、「キスカ」が話題になったので、久しぶりに手持ちの映画を見てみた。ちょっとのつもりが、なかなかよくできているのでつい最後まで見てしまった。この「キスカ」に関しては、かってブログにも感想を書いたことがあるので、再録しておこう。
https://www.youtube.com/watch?v=pKRzYvoVR8I
 どうでもいいことだが、以前から「キスカマーチ」と呼ばれる主題曲の一部がなんとなくアニメ「鉄腕アトム」の曲と似ているのでもしかしたら同じ人の作曲?と思って調べてみたら違っていた。「エヴァンゲリオン」の曲が「007ロシアから愛をこめて」の「レクター奪取」の曲に似ていたり、こちらの下衆の勘ぐりかなぁ?

↓以下、再録。
 ひところ東宝が毎年「8.15」シリーズを作っていた(「日本のいちばん長い日」「沖縄決戦」など)の1965年度作品で、私は名古屋の名宝劇場で見た。もう半世紀も前のことだ。そんな映画を久々に見てみた。
 アッツ島の玉砕の後、キスカ島守備隊も玉砕を待つしかなかったが、北方担当川島中将(山村聡。貫禄十分)の説得により、5千余名の救出を敢行する。その責任者が大村少将で、三船敏郎はこういう役をやらせるとうまいなあ。稲葉義男、藤田進、佐藤允、軍令部総長の志村喬や作戦部長の西村晃など、現実の戦争を知っている連中だけに違和感はない(初代ウルトラマンの黒部進やイデ隊員の二瓶正也も出ているので見る機会があったら探してもらいたい)。 
 なかなかよくできた特撮と合わせ、この時代には珍しく白黒映画なのでリアリティも十分。普通の常識なら、戦況が悪くなったら撤退というのは、ある意味当たり前に思えるのだが、それを許さない状況が当時の日本軍にはあったのだろう(「戦陣訓」には「生きて虜囚の辱を受けず」なんてあるからねー)。
 「ナバロンの要塞」という映画を見たとき、ナバロン島の大砲は崖をくり抜いた中にあるので空爆がきかない、破壊するには爆弾を抱いた飛行機で突っ込むしかない。そんなことはできないのだから特殊部隊を送り込むという設定そのものが、日本では成り立たないと思ったものだ。
 捕虜になって敵の辱めを受けるくらいなら、自決せよなんて(戦争やりたい坊ちゃんの安倍独裁者あたり、自分は安全な所にいて言いそうな言葉だ)、軍はもちろん日本全体も(少数の例外はあるにせよ)狂っていたんだろう。そんな中での救出・撤退作戦は「奇跡」と言うしかないのかもしれないが、やはりこれが「奇跡」と言われる世相はおかしい。もう少し突っ込んで考えてみると、そもそも捕虜を恥と考えなければ危険を犯しての救出を待つか玉砕かという二者択一ではなく、降伏すればいいだけの話ではないか、ともいえなくはないのだ。
 天皇陛下からいただいた鉄砲を大切にせよ、なんてシーンをさんざん映画で見慣れてきた人間にとっては、(史実はどうあれ)救助艦に乗り込むときの「鉄砲を捨てろー」という「命令」は、なんとも清々しく聞こえた。
 それにしても、アッツ島の玉砕の後、キスカを撤退したのが昭和18年7月29日と出たのは、戦後生まれの私には、ある意味驚きだった。終戦の2年も前のことではないか。それでいて、この惨状だ。ミッドウエイ以降多くの島で何万人何千人という死者を出して、軍部はまだ反撃できると考えていたのだろうか?
 映画そのものに関していえば、一旦出航してキスカを目前に引き返したりすると話がだれるものだが、なかなかうまく練られたシナリオで飽きることはない。三船以下の俳優の演技も見事。映像的には、海岸に並ぶ兵士の列も悪くはないが、なんといっても海を見ている犬の向こうの霧の中に軍艦がふわっと幻のように現れるシーンが出色の素晴らしさである。千人は集めたかと思われる脱出シーンにしても、昨今のCGのものとはひと味違ったリアルさがあって素晴らしい。先の戦争に関しては様々な評価があると思うが、そうした政治的評価を抜きにしてこの映画は十分に合格点を与えられると思う。
 ところで、私の朧げな記憶ではラスト近く、アメリカ艦隊が無人のキスカ島に向かって一斉射撃をするシーンがあって、劇場では拍手が起きたと思うのだが、今回見たバージョンではラストに字幕が出るだけそのシーンが全くない。ううむ・・・私の記憶違いか(最近ボケているのでその可能性は大いにある)、字幕を読んでのイメージが焼き付いていたのか、それとも別バージョンがあったのだろうか?
名称未設定 1.jpg
 故KSさんも、こんな感想を寄せてくれています(以下、原文ママ)。
  戦争映画は色々あるようです。大体が、「人間の条件」のような無慈悲な軍人上司がいて、おとなしい一般兵卒を虐待するのが定番で、それが実態だったんだろうと思っていました。昔観た映画(名前は忘れました)も総てそのたぐいでした。
 今回観た、「太平洋奇跡の作戦キスカ」は素晴らしかった。こんなことが有ったんだ、と。軍隊の兵士は全て駒であって、弾が切れれば銃剣で突進。人間の命など虫けらのように思っていた軍隊幹部連中。人間は全く非情なる動物だとも思っていました。戦争でなくとも現在でもそういう人間は多くいますが。
 ところが、このキスカは5200名の玉砕寸前の兵士を救うために、必死で海軍上司を説得し、みごと救出に成功した。キスカにいた兵士も上司も皆命を大切に思う人ばかり。こんな軍隊って有ったのですね。
 海軍はそういう軍隊だったのかもしれません。陸軍はひどかったんでしょう。親父はビルマ方面に海軍として出兵していました。あまり戦争の話はしたがらなかったのですが、今回のキスカの海軍兵のような感じじゃあなかったのかなと思っています。原住民と仲よく暮らしていたというようなことを、ちらっと言っていたことを思い出します。三船敏郎はいいですねえ。
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wildboar

昔の俳優は個性豊かな人が多かったですねえ。
by wildboar (2022-08-31 11:37) 

JUNKO

この映画の記憶はありません。随分と詳しく覚えているのですね。流石と感心です。
by JUNKO (2022-08-31 13:04) 

アニマルボイス

>wildboar様
やはり戦争映画は戦争を体験した人がやるとリアリティがあります。テレビドラマの「この世界の片隅で」などなかなか力作だったんですが、やはり松坂桃李では(ジャニタレよりははるかにマシですが)、ちょっと違うんだがなあという気がしてしまいます。

>JUNKO様
要するに「暇」なんです(^^;。
東宝の戦争映画では本作と岡本喜八監督の「独立愚連隊西へ」ですかね。どちらも戦争をゲーム化しているという政治的批判がありますが、映画は映画として評価したトリュフォー監督を見倣っています。
by アニマルボイス (2022-08-31 14:24) 

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