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「夏への扉」はSF映画か? [映画・文学・音楽]

 今日は少し時間がとれそうだし天気もいいので、久しぶりに「週2」の整骨院に行ってきましょうかねー。なんてったってアイドル(←古(^^;)じゃなくて、万年腰痛の年寄りですから。( >_< )

※本日は、忘備録です。スルー推奨。(^-^)
 かつてロバート・A・ハインラインというアメリカのSF作家がいた。SF界の巨匠とも言われ、私が最初に読んだのは講談社の子ども向け全集本の「赤い惑星の少年(レッド・プラネット)」という作品で、少年の活躍によりナント最後には火星の(地球に対する)自治宣言に至るというような話だったと記憶している(小学生だったかのときの読書なので記憶は曖昧だ)。今にして思えば、これって要するにアメリカ独立宣言の焼き直しネ。後年のヒユーゴー賞(アメリカSFの父ともいわれるヒューゴー・ガーンズバックを記念した賞)を受賞した「月は無慈悲な夜の女王」も同工異曲のようなもので、ハインラインお好みのテーマだったのだろう。
 高校生になってから読んだ短編集「地球の緑の丘」には感心したが、「太陽系帝国の危機(ダブル・スター)」や「異星の客」(創元SF文庫のあまりの部厚さにSFフアンの間では「サイコロ」と呼ばれていた)、「宇宙の戦士」(映画「スターシップ・トゥルーパーズ」の原作)などは、つまらなかった。広大な宇宙空間を舞台にした大スケールのSF小説を書きたいという気持ちはわかるのだが、ちょっと哲学的なことを語りだすとどうにも底が浅く退屈してしまうのだ。ノーテンキな軍隊主義が翻訳出版当時のSFマガジンで論争になったことも、今となっては懐かしい。映画「スターシップ・トゥルーパーズ」のことも少しだけ書いておくと1は原作よりおもしろかったが、2、3やCGアニメ版はつまらなかった。原作に出てくるパワードスーツはアニメ「機動戦士ガンダム」のデザインに影響を与えたはず(というかハヤカワSF文庫のスタジオぬえのイラストがね(^^;)。
 その点、宇宙生物の侵略を扱った「人形つかい」などは侵略生物の設定が明らかに共産主義者と想定されているにしても(1951年作品。赤狩りのマッカーシー旋風が吹き荒れていた時代だ)おもしろかった。身近なところから話を始め、「宇宙の戦士」のような大スケールSFになる直前で話を終えているのが成功の理由だろう。
 そうした、無理に世界を広げようとせず、うまくまとめているということでは、もう一作ある。「夏への扉」だ。(以下、ネタバレあり)
 「夏への扉」はまだSF沼にそれほどはまっていないときに読んだのだが、おもしろかった。研究バカの主人公が悪人のために総べてを失い30年ものコールドスリープに入れられてしまう。しかし、30年後に主人公が目覚めると、実験中とはいえタイムマシンが作られている。それで30年前に戻った主人公が(いつ、どこで何がどう起こるのか全部わかっているので)復讐を果たし、悪は滅ぶ。めでたしめでたしというお話。話自体が単純で、わかりやすい。これも主人公の周りでだけ展開するスケールの小さな世界での話だったのが、成功の要因だったと思う。ただ時間テーマのSFとしては過去へ戻るということだけに留まり、タイムパラドックスのようなややこしいことには知らんぷり。それでも、大きな不満は感じない。
 要するにこの話のおもしろさは時間テーマにあるのではなく、ドジな主人公が痛快に復讐を遂げるというところにあるのだ。つまり「モンテ・クリスト伯」であり「半沢直樹」の倍返しと同じ位相である。SF小説に限っても、その後いろいろな作品を読み進んでいくと、「夏への扉」の個人的復讐たるやアルフレッド・ベスターの「虎よ、虎よ!」などと比べて遥かに迫力に欠けるのだが、小説のまとまりという点では迷うことなく合格点をつけられる。
 私のSF遍歴はウイリアム・ギブソン「ニューロマンサー」あたりで終わっているので最近の作品は知らないが、たとえば初めてSFを読もうとする人にいきなりフィリップ・K・デックの傑作「ユービック」など薦めても途中で投げ出されるのがオチだろう。その意味で「夏への扉」は話の筋も単純でわかりやすくSF入門として最適ではないかとは思う。微妙な書き方になっているが、要するにそれ以上でも以下でもないということだ。その程度の評価なので、私がSF小説ベスト5、いやベスト10を選んでもこの小説は入ってこない。
 ところが、この「夏への扉」、日本では異様なほど人気があるのだ。あまりSFを読まない人もこの作品だけは読んでいたりして「SFって意外におもしろいねえ」などと言う。まあ、コールド・スリープが出てきたり、タイムマシンが出てきたり、(出版当時はなかった)掃除ロボのようなものも出て来るのでもちろんSFであることは間違いないのだが、基本は復讐譚のおもしろさであることだけは再度確認しておきたい。それととくに女性フアンが必ずと言うのが「ピートかわいい」(^^;。ピートというのは作中に出てくる、主人公が飼っている猫のことなのだが、それSFとは関係ないよネ。もちろん小説なのだから人物描写も必要だし、ハインラインが大の猫好きだったこともあってピートはよく描けている(「未来世界から来た男」などSFショート・ショートの名手フレドリック・ブラウンも猫好きだったと記憶している。SF作家には猫好きが多いのだろうか?)。そうした描写が小説として重要なことは認めるものの、犬派の私には猫がかわいいからといって、それだけで「夏への扉」を傑作と言う気にはなれない。
夏への扉.jpg
 とまれ、その「夏への扉」が映画になった。
https://www.youtube.com/watch?v=0Rlnb0N8vxU
 それもSF映画大量生産のアメリカではなく、この日本で。となると、ヒットした「バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTF)」と比べてもあまりに単純な話をどう料理したのだろうという興味がわくではないか。機会があったので、さっそく見てみた。「BTF」は、未来に帰るには膨大な電力量が必要だ、プルトニウムから生み出されるようなそんな電力量は過去のその時代には不可能だ、あるとすれば雷だけだが雷はいつどこに落ちるのかわからない・・・それがわかる(巧妙な伏線だ)というような緊張感・なるほど感がシナリオにあった。しかし、「夏への扉」には見る者をニヤリとさせ感心させるそんなおもしろいレトリックは存在しない。「半沢直樹」ではないが単純な「倍返し」ストーリーで2時間の映画がもつのか。
 そんなことをあれこれ考えながら見た。
 監督は「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」「思い、思われ、ふり、ふられ」などの三木孝浩。「ぼくは明日」は、福士蒼汰、小松菜奈の好演もあってなかなかおもしろい映画だったが、タイムトラベル「的」要素もあった。青春恋愛映画が多いが、ある程度のSFマインドはある人なのだろう。
 主演は山﨑賢人(原作のダン)以下、清原果耶、原田泰造、田口トモロヲ、夏菜、藤木直人・・・と、なかなか豪華。まだ見ていない人が多いと思うので、詳しいことは書かないが、結論としてはSF的に押していく映画ではなく、かなり恋愛に大きくシフトした映画だったとだけ書いておこう。なんせ副題が「キミのいる未来へ」だもんネ(ただし、この副題はちょっとミスリードの気味がある)。
 ただ、監督の性格からして恋愛にシフトするのは映画的表現として許容するとしても、時代設定を1995年(つまり30年後は2025年だ)にしたのはどうなんだろう。まあ、2025年にしておけば背景セットを作ったりする必要がないという予算の問題もあるのだろうが、やはり2020年あたりを基準にその30年後(2050年)へのコールドスリープとするほうがSF的にはわくわくさせるものがあったのではないのか。2025年といえばわずか4年後、その時代にコールドスリープから目覚めるとかタイムマシンがとかアンドロイド(ヒューマノイド=人型ロボット)があちこちで活躍しているとか言われても今の現状からはわずか4年後のことなので、どうにもリアリティー皆無(SFにもリアリティーは必要なのだ)。とてもすんなりとは受け入れられない。
 あと、物語のキーポイントとなるタイムマシン(映画の中では「時間転移装置」)のデザイン、もう少しなんとかならなかったのか。といっても、壮大なセットが必要だというわけではない。「BTF」のデロリアンなどあんなものでと思うのだが、シャレてカッコイイのでつい納得してしまうのだ。映画は「そう思わせる」ことが重要で、あのポンコツデザインでは到底時間旅行ができるとは思えない。結局、SF的設定は単なる背景でメインは青春恋愛という監督の志向が強く出た映画ということに収まった。

 山﨑賢人はカッコよすぎて前半のダメダメぶりがイマイチだが全体としては悪くないし、恋愛ドラマだと考えたらまあこれくらいカッコいい主人公でないと映画として成立しない。清原はあいかわらず表情の変化に乏しいし、原田の演技もいつもながらのクサイものだが邪魔になるほどではない。夏菜は、こんな役もやりますよーといったところか。田口トモロヲの30年後の容貌、動作は明らかに「BTF」のドクを真似たものだろう。結局、一番印象に残ったのは原作にはないアンドロイドを演じた藤木直人。名演技だ。
 参考までに原作との各人の関係を書き出しておく。
高倉宗一郎=山﨑賢人(ダニエル=ダン)
松下璃子=清原果耶(リッキィ)
松下和人=眞島秀和(マイルズ)
白石鈴=夏菜(ベル)
佐藤太郎=原田泰造(サットン)
遠井=田口トモロヲ(トウィッチェル教授)
 総合評価としては、山﨑賢人や清原果耶のフアンの人、三木孝浩監督なので青春恋愛映画を期待して見に行った人は、美男美女のハッピーエンドなので満足。ハインライン原作なのでSF映画と思って見に行った人は不完全燃焼。それ以外の人には見て損はないが、見なくても損はしない一風変わった恋愛映画とでも言っておこう。
 と、言いたい放題ですが、寒さに向かう今の季節、私も「夏への扉」を探したい1人です。(^^;
 評価 ☆☆☆
 ☆★は、尊敬する映画評論家・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。合格というか、まあ許せるラインということです)

※補足として私のSFベスト5をあげておく(順不同)
ディック「ユービック」
ベスター「虎よ、虎よ!」
ブラッドベリ「火星年代記」
ブラウン「発狂した宇宙」
シマック「都市」
(上にも書いたように私が熱心にSF小説を読んでいたのは1980年代半ばに翻訳されたウイリアム・ギブソン「ニューロマンサー」あたりまでなので、最近のものは読んでいません。悪しからず。(^^;)
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JUNKO

これだけの長文打つのに私なら3日はかかりそう。昨日は整骨院で首のあたりに電気かけてちょっとめまいが起きました。電気のせいではないそうです。耳の石がちょっと動いたそうで。
by JUNKO (2021-12-23 12:47) 

アニマルボイス

内容のない長文は前後矛盾とか重複とかほとんど考えずに打っているので、2時間くらいですか。
『山波』の原稿は、もっと時間をかけていますよ。とは言っても、次号に何を書くのか全く決めていませんが。(^^;
by アニマルボイス (2021-12-23 14:52) 

wildboar

私のコメント、入ってなかったようですね。
以前アニマルさんがコメントがー、と言っていた状態が最近、私に感染したようで、どうもおかしい状態です。
確か、「山波」の原稿もよろしくねー、と入れたつもりだったのですが、nice も押されたないようだったので、寝ぼけていたのかもしれません。^^;
by wildboar (2021-12-23 20:03) 

アニマルボイス

自分のコメントすらときどき表示されないことがあります。困ったものです・・・。
『山波』の原稿は、いったんやる気が失せてしまったので、その続きを書く気になれません。かといって、何を書くのかもまだ決まっていません。来週から正月明けまではしっかり休みをとるつもりですので、その間に少しはと思っています。(^^;
by アニマルボイス (2021-12-23 22:13) 

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