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映画オールタイム・ベスト10 [映画・文学・音楽]

 なんでもベスト10が好きなのは映画とミステリなんだそうだ。
 言われてみれば確かに昔から盛んである(強いて上げれば、あとSFだがベスト10好きのランクで言えば2ランクほど落ちる)。ただ、これはすでに何度も書いていることなのだが、多くの人の評価の平均というのは、あまり参考にはならない。というのも、「まあ話題になった映画でもあるし、ベスト10の10位くらいに入れておくか」という人が多ければ結果としてその作品が上位にきたりすることもあるわけだ。「他の評論家が1位に押しているかもしれないし、そんな作品を自分が無視していたことになるとマズイ」なんて自己保身が働いていることも大いに考えられる。
 ほとんどのベスト10が1位10点、10位1点の計算なので、しっかり見て考えた何人かが1位に推した作品より、適当に見た(私のこのカテゴリ(^^;)多くの人が5、6位に推した作品のほうが上位に来るなんてことはざらにある。
 ベスト10なんてものは所詮その程度の適当なものだということがわかっていたからこそ、昔、双葉十三郎さんは、ヒッチコックの「鳥」を1位に推したとき、
「えっ、『鳥』が1位ですか?」
と訊かれてこう答えたのだ。
「まあ、1位という感じの作品じゃないんだけどね、少し順位を上げたかったから」
 さすが双葉さん、集計ベスト10の無意味さがわかっていらっしゃる。
 黒澤明の傑作「隠し砦の三悪人」の評に、ベスト10の時には、きちんと見ていなかったので入れなかったが「いま、もう一度、この作品を見て、やはり、『楢山節考』と並べてもいい作品だと思っている」(井沢淳)なんて無責任なものもあった。おいおいおっさん、あんたそれが仕事だろうが、仕事がこなせないのなら選者辞退しろよ、と言いたくもなる。が、「権威がある」と言われているキネマ旬報ベスト10にしてからが、そんな程度のものなのだ。ちなみに、ここであげられている「楢山節考」は木下恵介監督で、この年のキネマ旬報ベスト10の1位。

 キネマ旬報のベスト10はわかりやすいヒューマニズムが評者たちに受けるのか、なぜか異様に木下恵介の評価が高い(逆に娯楽色の強いものは評価が低い)。たとえば黒澤の代表作「七人の侍」が3位になった1954年度のベスト10は1位が「二十四の瞳」、2位が「女の園」どちらも監督は木下恵介である。「二十四の瞳」はともかくとして、「七人の侍」を知らない人はいないと思うが、「女の園」を見たという人には未だ会ったことがない。もちろん?私も、見ていない。木下の高評価に対して黒澤は概して低く、2009年のキネマ旬報オールタイム10で堂々5位にランクされている「羅生門」も1950年のベスト10では第5位。1位から4位までのうち私が見ているのは「また逢う日まで」(今井正監督)だけだが、映画のもつ緊張感からして比較にならない(ついでに書いておくと黒澤映画でもヒューマニズムを前面に出した「生きる」と「赤ひげ」はベスト10堂々の1位で、黒澤作品の1位はこの2作だけである)。
 もちろん、私が、きゃはははと映画館で笑い転げたクレージー・キャッツの映画なんてのは「お呼びでない」ので全滅。007屈指の傑作であった「ロシアから愛をこめて」は完全無視。今でこそカルト・ムービーなんて言われている「ブレード・ランナー」なんか、映画館はガラガラだったぞ。

 1999年のキネマ旬報オールタイム・ベスト10で1位(2009年のベスト10では4位)と評価が高い「第三の男」が1952年のベスト10では「チャップリンの殺人狂時代」に1位をゆずっているもの納得がいかない。オールタイム・ベスト10上位常連の「天井桟敷の人々」や「2001年宇宙の旅」も公開年のベストワンにはなっていない。ちなみに、2009年に発表されたキネ旬オールタイム・ベスト10(ベスト200として発表)は、

★洋画
1 ゴッドファーザー
2 タクシー・ドライバー/ウエスト・サイド物語
4 第三の男
5 勝手にしやがれ/ワイルドバンチ
7 2001年宇宙の旅
8 ローマの休日/ブレードランナー
10 駅馬車/天井棧敷の人々/道/めまい/アラビアのロレンス/暗殺の森/地獄の黙示録/エル・スール/グラン・トリノ

★邦画
1 東京物語
2 七人の侍
3 浮雲
4 幕末太陽傳
5 仁義なき戦い
6 二十四の瞳
7 羅生門/丹下左膳・百萬両の壷/太陽を盗んだ男/家族ゲーム
10 野良犬/台風クラブ

 まあ、馬鹿言ってんじゃないよと蹴飛ばしたいほどの意味のないベスト10ですな。1995年の洋画ベスト3に入っていた「市民ケーン」は、どこへ行ったんじゃあ。「ゴッドファーザー」なら「PART2」のほうが出来がいいし、「ワイルドバンチ」は傑作で私も好きな作品だが、「駅馬車」や「シェーン」の上に来るような大傑作ではないだろうが。えっ、「シェーン」に至っては圏外か。オールタイムの名作として「タクシー・ドライバー」や「地獄の黙示録」なんていうクソつまらない作品を選ぶセンスにはとてもついていけない。そもそも、「西部戦線異常なし」のような名作中の名作が入っていないベスト10などとても参考にする気になれない。
 邦画もひどいもので、7位に4本入っているのだから、次は11位になるはずなのになぜかなぜか10位に2本。キネマ旬報は年々つまらなくなっていったのだが、今や小学生にもできるような計算までできなくなったようだ。これでは内容について書く気にもなれない。なんまんだ、なんまんだ・・・合掌。

 そんなわけで、キネマ旬報のベスト10など、あまり信用できない。というか、全然信用しないほうがいい。キネ旬の順位など、映画の宣伝に使われる以上の価値などないと知るべきである。
 100人のアンケート結果なんてものより、信頼のおける(自分の感性に合う)評論家を見つけ出し、その人が単独で選んだものを参考にしながら見る映画を選んでいくべきである。ヨドチョーさんでもおすぎでも町田でも前田でもいい。自分の感性に近い評論家の誉めている映画を追いかけているうちに自分自身の選択眼というものができてくるはずだ。
 私の場合はその信頼できる評論家が故・双葉十三郎さんだった。もちろん生まれた時代もその映画を見る能力も環境も違うし、価値観が全く同じということなどはあり得ないのだから、「それはちょっと違うと思うんだけどなぁ」というものも多々ある。それでも、学生時代ならともかく、手当り次第に映画を見ていく金も時間もない今、名作を見ていく上で双葉さんの批評は大いに参考になった。双葉さんが亡くなった今では、自力でおもしろい映画を探すしかないのだが、映画の見方など多くを教えてもらったと思う。感謝。

 以下、双葉十三郎さんのベスト10(ベスト15)を掲げておく。
 すべて、オールタイムのもので、◎のついているのは私も見ているものである。リアルタイムではない古い映画はとりあえず双葉さんの評価を頼りに見てきたので、かなりの達成率だと思う。「ベスト10に入れるほどのものでもないのかな」と思ったものはあるものの(たとえば「大いなる幻影」。もちろん凡作ではないが、ラストの国境越えで「撃つな」というのはとても「甘い」と感じた。見たときの「時代」というものが大きく影響しているのだと思う)、ただし、見てがっかりというものは1つもなかったと書き添えておく。
★外国映画ベスト15
◎「黄金狂時代」チャップリン
◎「西部戦線異常なし」マイルストン
◎「大いなる幻影」ルノワール
◎「駅馬車」フォード
◎「疑惑の影」ヒッチコック
◎「天井桟敷の人々」カルネ
◎「サンセット大通り」ワイルダー
 「河」ルノワール
◎「恐怖の報酬」クルーゾー
◎「禁じられた遊び」クレマン
 「水鳥の生態」(ドキュメンタリー)
◎「野いちご」ベルイマン
◎「突然炎のごとく」トリュフォー
◎「スティング」ロイ・ヒル
◎「ザッツ・エンタテインメント」ヘイリーJr

★日本映画ベスト10
(オーソドックスに選んだもの)
 「忠次旅日記」伊藤
 「抱寝の長脇差」山中
◎「浪華悲歌」溝口
◎「安城家の舞踏会」吉村
◎「麦秋」小津
◎「七人の侍」黒澤
◎「二十四の瞳」木下
◎「浮雲」成瀬
◎「飢餓海峡」内田
◎「幸せの黄色いハンカチ」山田

★ゴヒイキ作品ベスト10
(双葉十三郎さんの「好みを前面に出した」もの)
◎「姿三四郎」黒澤
◎「幕末太陽伝」川島
◎「独立愚連隊」岡本
 「古都」中村
◎「砂の器」野村
◎「男はつらいよ・寅次郎相合い傘」山田
◎「時代屋の女房」森崎
◎「おはん」市川
◎「本覚坊異聞 千利休」熊井
◎「Shall we ダンス?」周防

 というわけで、ベスト10に入れるか入れないかは別にして、それなりに納得できるベスト10ではある。

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 以下は私のベスト10。双葉さんのものと違って全く頼りにならないベスト10であり、全く参考にならないことは、言うまでもない。好みを前面に出して選んだもので、まあ意味がないと言ってしまえばそれまでだが、ブログの役割の大きな部分は私の忘備録のようなものでもあるので、お許し願いたい。
(いずれも順不同。◎は双葉さんと重なるもの)

★外国映画ベスト10
◎「西部戦線異常なし」マイルストン
 「アラビアのロレンス」リーン
 「サウンド・オブ・ミュージック」ワイズ
◎「駅馬車」フォード
 「第三の男」リード
◎「野いちご」ベルイマン
 「スパルタカス」キューブリック
 「ベン・ハー」ワイラー
 「街の灯」チャップリン
 「太陽がいっぱい」クレマン
【補足】
 ブログの別記事でも書いているように映画というものは基本、見世物だと思っている。だが、見世物だけに終わらないのも映画というものだ。その意味で、「ロレンス」以下、いわゆる見世物だけに終わっていない超大作が何作かランクインした。「2001年宇宙の旅」「大いなる西部」「ブレードランナー」「ライアンの娘」なども入れたかったのだが、今回は微差のところで残念。芸術映画はあまり好きではないが、「野いちご」ぐらいのレベルに達しているとやはり無視するわけにはいかない。人生というものの意味をこれほど考えさせられた映画は他にない。厳しい映画だが、ラストには不思議な温かさがあった。チャップリンはいつも「街の灯」と「モダンタイムス」で迷うのだが、今回は「街の灯」にした。アラン・ドロンの主演映画は「太陽がいっぱい」と「冒険者たち」で迷うところだが、今回は「太陽」。この名作群の中で、さらにこの1本となると、やはり「西部戦線異常なし」を推したい。

★日本映画ベスト10
◎「七人の侍」黒澤
 「隠し砦の三悪人」黒澤
◎「砂の器」野村
◎「幕末太陽伝」川島
 「独立愚連隊西へ」岡本
 「ニッポン無責任時代」古澤
 「ゆきゆきて神軍」原
 「上意討ち」小林
 「雨月物語」溝口
【補足】
 私は黒澤のフアンなので、そのつもりで選ぶと「羅生門」も「生きる」も「用心棒」も入れたくなる。それではベスト10の半分が黒澤作品になってしまい、こういうものを作る意味がなくなってしまう。それで黒澤作品は2本だけにし、好みを出しながら上記のようにしてみた。「雨月物語」は話自体はどうってことはないが、ともかくカメラマン・宮川一夫が映し出す琵琶湖の幽玄とも言える景色が絶品。溝口+宮川での入選と考えてもらいたい。「ゆきゆきて神軍」はあまり見ている人はいないと思うが、これを見たらマイケル・ムーアをはじめとする世のドキュメンタリー映画など屁のようなものである。「ニッポン無責任時代」は、「クレージー黄金作戦」に換えてもよい。「上意討ち」は「十三人の刺客」と迷うところだが、今回は「上意討ち」に。高畑「火垂るの墓」、宮崎「ナウシカ」などのアニメも入れたかったのだが、またの機会ということで。m(__)m

 ……というような、いいかげんな私の映画ベスト10だが、
 さて、みなさんも独自の映画ベスト10作ってみてはどうですか?

★カメラの「Leica Q2 James Bond 007 limited edition」が発売されるんだそうです。ボンドがライカのカメラを使っていたシーンでも今までにあったのでしょうか? それとも今度封切られる作品で使われているんでしょうか? ま、いずれにしても50万以下ということはあり得ないんでしょうから、私には関係ない話なんですが。(^^;
https://leicarumors.com/2020/09/07/more-rumors-leica-q2-james-bond-limited-edition-and-leica-q2-monochrom-camera.aspx/
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wildboar

お疲れ様でした。
私は「ベン・ハー」、「サウンドオブミュージック」、「メリーポピンズ」です。
by wildboar (2020-09-08 08:12) 

アニマルボイス

なるほど。映画は人によってそれぞれですから、納得です。そんな意味でも大勢の寄せ集めベスト10は無意味ですよね。
by アニマルボイス (2020-09-08 08:16) 

makkun

アニマルボイスさん
おはようございま~す(^^
残念ながら私の日記はついに最後になりました~
長い間のお付き合いに心からの感謝と共に
お元気でお過ごし下さ~い。
過日のアドバイスは私には難しいので
最後の日記に「これからどうするか」を
書いてみましたので覗いてみて戴けると幸いです。
ありがとうございました~o(*^▽^*)o~♪

ありがとうございました~o(*^▽^*)o~♪

by makkun (2020-09-08 09:43) 

アニマルボイス

ありゃー、さっそく訪問させていただきます。m(__)m
by アニマルボイス (2020-09-08 10:48) 

JUNKO

我ながらよく見ているなと感心、女の園の記憶がありませんが見ていないはずはないと思っています。映画が唯一娯楽の時代に育ちましたから、小学生の時から見ています。順位はつけがたいですが、いつまでも心に残るシーンはあるものです。
by JUNKO (2020-09-08 11:08) 

アニマルボイス

ぜひ自身のベスト10を見せてください
by アニマルボイス (2020-09-08 15:16) 

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