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平凡な出来だった「新聞記者」 [映画・文学・音楽]

 冬なんだからと言ってしまえばそれまでなのだが、朝から雨(雪にならなかっただけ儲けものか?)で、しかも寒い。どうしようか迷っていたが、この後、思い切って整骨院に行くことにした。wildさんの助言通り週2回を確保するのはなかなか難しい・・・。

「新聞記者」☆☆☆
新聞記者.jpg
 東京新聞の望月衣塑子記者が書いた「新聞記者」が原案とされ、安倍ちゃま御友人のレイプ事件、森友、加計、官僚の自殺といった現実の出来事を彷彿とさせる事件が描かれている。これだけの公私混同事件を引き起こしながらへらへらと桜を見る会でまた問題を起こした人間がトップに立つことを是認しているような日本で、こういう映画を作ったという点をまず評価したい。
 ただ、映画自体はあくまでフィクションであり、ドラマ、昔風に言えば「劇映画」である。ドキュメンタリーではない。もちろん映画を見ていれば、ああこれはあの事件がモデルだなとわかるが、現実とドラマとの距離感で言えば、この程度の距離をもった映画は「金環蝕」「不毛地帯」など過去にはいくらでもあったわけで、こういう映画がよく作れたなぁと思えるところに今の日本の現状がある。

 監督は藤井道人という人らしいが知らない。主演は新聞記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)、若き官僚の杉原拓海(松坂桃李)とのW主演とも言うべき作りで、杉原の妻に本田翼、杉原の先輩に高橋和也、その妻に西田尚美というキャストである。ヒロインのシム・ウンギョンは好演だが表情がややオーバーなのとやはり滑舌が気になった(帰国子女という設定にしたのは、この滑舌の問題があったからだと思う)。韓国人が日本人の役を演じるのだから仕方がないと言ってしまえばそれまでだが、蒼井優や満島ひかりなど日本の女優たちに断られた結果という話も聞く。はっきり言ってハリウッドの俳優が積極的に政治的発言をしているとのは大違い。オファーを断った女優たちは日頃「演技派」ですわよ「言いたいことははっきり言いますわよ」という言動をしているが、たかだかこの程度の(と、はっきり書いてしまう)映画に何をビビっているんだ。門脇麦ならやったと思うのだが、ちょっと若過ぎるので声を掛けなかったのだろう。

 そういう意味ではこの映画の中で唯一売れっ子俳優と言える松坂桃李はよく引き受けたと思う。全裸の女性との絡みまである「娼年」のときも、よくこんな役を引き受けたなあと思ったものだが、今回も周囲は「政治的な色がつくのはよくない」なんて反対したのではないだろうか。逆に時代劇の「居眠り磐音」ではいつも眠っているように見えるのに颯爽とした剣さばきの浪人を演じて違和感がない。自身の意見を持っている俳優なんだなと思う。
 驚いたのは松坂の妻を演じる本田翼。チャラチャラゲーマーギャルのイメージが強い彼女に依頼したのも不思議だが、この役をよく受けたというのはさらなる不思議。ところが彼女この映画では自然に演じていて違和感がない。こんなバッサーは初めて見た。松坂共々よくやった。偉い。

 ということとは別に、1本の映画として見た場合、さぁてどうなんだろう。映画は映画として評価したいという私の基準からするといろいろ疑問もある。

 まず、タイトルこそ「新聞記者」となっているが、内容はむしろ組織の中の個人の苦悩を描いたものだ。その意味では新人記者としてのシム・ウンギョン=吉岡の苦悩など(映画の中では)それほどのものでもなく、巨大な官僚組織の闇の中で苦悩する松坂桃李=杉原の苦悩のほうがよほど見ている者に迫ってくる。
 ただ、こうした官僚組織の闇とそれを暴こうとする新聞記者という図式はすでに今まで何度も見てきたものだ(これをわかりやすく描いたものとしてはウォーターゲート事件がモデルの「大統領の陰謀」がある)。杉原に圧力をかける上司というのもステレオタイプだ。かつての上司の死(自殺)の経緯ももう一つ説得力に駆けるし、その死をきっかけに内情をリークする気になる杉原の行動はわからないわけではないが、十分に納得できるものとは言い難い。ラストも思い入れたっぷりの音楽で長すぎ。杉原の言葉は「わるい」なのか「ごめん」なのか、意味有りげに音声を消しているが、こうしたメロドラマ風ラストでよかったのかどうか。
 誰多くの圧力を感じながらも「事実」を明らかにしていくのが「新聞記者」というものだ。ラストはやはりこうした事実を官房長官に突きつけ問い糺していく記者会見の場面にしたほうがドラマとして納得できるものになったと思うのだが、どうだろう。

 結局のところ、今のこういう社会情勢の中でこういう映画を作ろうとした意図は評価出来るし、公開できたことはとてもよかったとは思うのだが、映画の出来そのものとしては残念ながら平凡な出来と言わざるを得ない。暴露される事実も生ぬるい。今の日本ではこのあたりが限界なのかもしれない。この映画を見たら、「i -新聞記者ドキュメント-」を見てみたくなった。

↓予告編
https://www.youtube.com/watch?v=-Gaym9BOrcM

☆★は、尊敬する映画評論家・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。合格というか、まあ許せるラインということです)
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wildboar

観ていないのでコメントできませんが、アニマルさんが平凡だったというのであれば、間違いないでしょう。
ところで、最近、望月さん、話題に上がらないみたいですねえ。
by wildboar (2019-12-17 13:33) 

アニマルボイス

今までの「迷走日記」なども見ていただけるとわかると思いますが、☆3つというのは合格点ということです。
最近は毎日の記者が「桜」関係でかなり突っ込んだ質問をしています。望月さんが目立つという状況は、ジャーナリズムとしては好ましくないですね。
by アニマルボイス (2019-12-17 13:46) 

リス太郎

『新聞記者』。今すぐにでも観たくなりました。さすが淀川長治先生。
さいなら。さいなら。さいなら。
by リス太郎 (2019-12-18 01:21) 

アニマルボイス

傑作と言えるほどではありませんが、見ていて退屈はしません。最近は年寄りが見て楽しめる映画がほとんどありませんので、その意味では貴重です。あくまで個人の感想です。(^^)/
by アニマルボイス (2019-12-18 08:51) 

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