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フレッド・ジンネマンの作品を連続で [映画・文学・音楽]

※今日のブログは忘備録です。映画に関心のない人はスルーしてください。
ジンネマン.jpg
 先日、突如として「何もしたくない病」が再発し、一日中ぼけーっとフレッド・ジンネマン(Fred Zinnemann1907〜1997)の作品を連続で見ていた。まあ、ジンネマンの映画は劇場で再上映されることもあまりないし、テレビでも最近は放送されていない。爆破や戦闘、チェイス、大モップシーンといった派手なシーンがあるわけではなく、作品の推移がある程度の集中力を必要とするので、今の時代に合わないのだろうか。若い人たちには「知らない」という人も多いと思う。
 今回見たのは、「真昼の決闘」(High Noon 1952)、「ジャッカルの日」(The Day of the Jackal 1973年)、「ジュリア」(Julia 1977)の3本。いくら傑作揃いとはいえ、映画を3本も続けて見るとけっこう疲れるもので、おかげで夜はぐっすり。翌日には、復活できた。
 こうして連続で見て、以前から思っていたジンネマン監督の特徴をよりはっきりと再確認できたことが、今回の最大の収穫か。要するに、ジンネマンが描きたかったのは、(男女、善悪を問わず)「信念をもった人間の生き方」なのだ。これは、今回は見なかった「わが命つきるとも」「日曜日には鼠を殺せ」などにも、もちろんあてはまる。だから、「真昼の決闘」のゲイリー・クーパー、「ジャッカルの日」のエドワード・フォックス、「ジュリア」のジェーン・フォンダ、ヴァネッサ・レッドグレイブなど、ジンネマン監督の息吹を受けてみな生き生きとしている。この「生きている」という実感が見ていて何とも素晴らしい。この3本の中で敢えて1本ということになると、私なら「ジュリア」かな。
 考えてみればジンネマンだけでなく、かつては、ワイラーにしろ、リーンにしろ、ヒッチにしろ、そして日本の黒澤にしろ、自分はこういう映画を撮るんだ、いうスバラな監督が何人もいたなあ。と、年寄りは、未来の時間がそれほど残されているわけではないので、ついつい昔を懐かしがってしまうのであった。

↓フレッド・ジンネマンについては、以前、テレビで「ジャッカルの日」を再見したときブログにこんなことを書いている。
 フレッド・ジンネマンの傑作「ジャッカルの日」が、「ムービー・プラス」で放送された。民放ではすでに放送されてはいるが、こういう映画はやはりノーカット・ノートリミングで見たい。
 ジンネマンの名前を初めて知ったのは「真昼の決闘(High Noon)」。ゲーリー・クーパー主演の西部劇だが、この映画といいバート・ランカスターに食われてしまった「ベラクルス」にしろ、クーパーって俳優本当に老けるのが早かったんだなあ。後にモナコ妃になり事故で亡くなったグレース・ケリーとの夫婦は、親子かという感じでどうにも収まりが悪い。「昼下がりの情事」にしても歳とったおっさんにしか見えずヘップバーンとはやはり親子。かっこいいクーパーというのを見た記憶がない。映画が作られたは、あのマッカーシズムの嵐の中、ハリウッドでも赤狩りが盛んに行われていた時代。そうした時代にこういう映画を作ったこと自体は素晴らしいのだが、映画は映画それ自体で評価するという私の物差しからすると、まあ言いたいことはとてもよくわかるのだがもう少し映画としての力が欲しいといったところ。それなりの出来で佳作と言えるが、こういう映画を「西部劇」とは認めたくはない。
 この後ジンネマンは「地上より永遠に」と「わが命つきるとも」でアカデミー監督賞を2度も受賞しているのだから、名監督と言っていいだろう。が、「地上より永遠に」は軍隊のいいかげんなぐじゃぐしゃを描いたという点が評価されたようなのだが私にとっては、どちらかというと退屈な作品。
 「ユートピア」で有名なトマス・モアが断頭台に消えるまでの生涯を描いた「わが命つきるとも」(余談だが原作は「アラビアのロレンス」のシナリオを書いたロバート・ボルト)も、せっかく高い金を払ってロードショー館へ見に行ったというのに見るべきところはアカデミー撮影賞に輝いたテッド・ムーアの色彩画面(冒頭から素晴らしい)だけと言っていいような映画で途中居眠り(^^;。いつも、言いたいことはわかるのだが映画としては退屈なところもあって、どうにも生理的に合わないなあというのが、私のジンネマンの評価だった。
 そのジンネマンが1970年代になって突如、文句なしに「いい映画だったなあ」と思える映画をたて続けに2本作ったのには驚かされた。
 1本は女どうしの友情、夫婦の愛情を見事なスリルを交えて描いた「ジュリア」(主演のジェーン・フォンダをはじめヴァネッサ・レッドグレイヴ、ジェイソン・ロバーズ、マクシミリアン・シェル、メリル・ストリープ皆よかった)。そして、もう1本が、当時のフランス大統領ドゴール暗殺を請け負ったスナイパー、コードネーム=ジャッカルを描いた、「ジャッカルの日」である。
 思うにジンネマンの映画には程度の差こそあれ、「たった1人になろうとも自分が正しいと思ったことは貫き通す」という主張がある。それはそれで立派だとは思うが、その主張が前面に出過ぎていたために映画としてのおもしろさを若干阻害していたのではないのだろうか(「真昼の決闘」「わが命つきるとも」「日曜日には鼠を殺せ」など)。それが歳を重ねるとともに肩の力が抜け、映画本来の流れの中でその主張を自然に語れるようになったのではないかと思う。いずれにしてもジンネマンの監督作品は戦後10本少々のはずで、自分の作りたいものだけを作るという生き方は、自身の映画の主人公にも通じるものがあり、その意味では「映画作家」として、もっと評価されてよい。
 ついでに書いておくと「ジュリア」は1978年度キネマ旬報第2位だが、私は退屈な第1位ビスコンティの「家族の肖像」よりはるかに高く評価している。とくにフォンだが列車に乗り込んでからの緊迫感は比類がない。この年の1位は、まちがいなく「ジュリア」だ。同様に「ジャッカルの日」は1974年度キネマ旬報第4位だが、1位「スケアクロウ」3位「ブラザー・サン シスター・ムーン」より上で、2位「ジョニーは戦場へ行った」に次ぐものだと思う。何を言いたいかというと、それほどの傑作なのだ。
 「ジャッカルの日」の主人公は正義の味方ではなく殺し屋だが、ただ1人で請け負った仕事に突き進んで行く、自分の意志を貫いていくという点では今までの作品の延長線上にある。ジンネマンの本領発揮と言っていい。
 巻頭のナレーションが終わってスクーターの疾走が映し出されるシーンから画面にスピード感があって快調そのもの。今の目から見ると、フランスでは大統領暗殺「未遂」でも死刑になるんだ、などと複数人を理不尽に殺しても死刑にならない日本との差異に驚きながらもどんどん画面に引き込まれていくことになる。
 問題は観客が、ド・ゴール大統領が暗殺されなかったという「歴史的事実」を知っているということである。つまり、どうなるんだろうというハラハラドキドキの結果が最初からわかっているわけで、歴史上の事件を背景にした物語はこういうところが難しい。いい例が「アポロ13」で、帰還のとき通信が途絶えたところで画面の中の人物は心配そうに右往左往しているのだが、観客は「どうせ助かるんだから」と思っているため、ひどく緊張感を欠いたラストになってしまった。ところが、この映画は違うんだなあ。ラストの数分間、ほぼ効果音だけで押し切ったジンネマンの演出はただ者ではない。うれしいことに、結末に向かってどんどん緊張感が増していくのだ。
 歴史的事実としてド・ゴールは暗殺されていない。しかし、それまでの物語の進行やジャッカルの射撃の腕をもってすればド・ゴール暗殺は必至である。では、何がどうなって暗殺は失敗するのか。……つまり、ジンネマンは歴史的事実を逆手に取って観客を引っ張っていくのだ。
 さすがプロの技である。
 パスポートの偽造の様子やライフルの照準合わせなどのシーンなども実にテンポよく進んでいくので、何となく見ているこちらもジャッカルと視線が一体化し、スナイパーなのについつい肩入れしてしまうことになる。やろうとしていることは明らかに犯罪で、テロにはもちろん反対なのだが、(変な言い方だが)段取りが1つうまくいくたびに、わくわくさせられてしまうのである。後半の女の扱いがやや退屈だった点以外は緊張感に弛みがない。ジャッカルを演じたエドワード・フォックスの演技も称賛に値する。この人、ちょっと眠そうな目をしているのだがそれがちょっと虚無的な印象を与え、ともかく動きがシャープなのがよい。フォックスはこの後「ナバロンの嵐」「ガンジー」の将軍、「ネバーセイ・ネバーアゲイン」「遠すぎた橋」などでもお目にかかったが、このジャッカルの役を超えるものはなかったと思う。つまり、それほどの当たり役だったわけだ(ピーター・オトゥール=「アラビアのロレンス」のようなものですな)。
※そうそう、今回見ていてもしかしたらそういう意味も含ませているのかなと思ったことをつけおく。ジャッカルが街を歩いている時、雑踏の中でおっさんたちが下手な「クワイ河マーチ(ボギー大佐マーチ)」を演奏している。あの映画(「戦場にかける橋」)は、ボギー大佐(アレック・ギネス)が頑張って頑張って目標である橋の完成を目指すのだが・・・というものだったが、まさか伏線?

 いずれにしても、「ジャッカルの日」と「ジュリア」は最近のCG過多の映画に食傷気味の人には、ぜひお薦めしたい。(^_-)-☆
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wildboar

すみません、ちょっと急いでいるのでスルーします。(-ω-)/
by wildboar (2021-09-14 03:02) 

アニマルボイス

私自身の「忘備録」ですから、全然「すみません」ということはありませんよー。(^-^)
by アニマルボイス (2021-09-14 08:12) 

KS

映画ジャッカルの日、面白そうですね。小説は読んだ記憶は有るのですが、中身は忘れました。昔映画館で見たかもしれませんが、それも忘れてしまいました。
by KS (2021-09-14 10:10) 

アニマルボイス

おもしろいですよー。(^^)/
小説は私も読みましたが、映画のほうが上ですね。
by アニマルボイス (2021-09-14 10:16) 

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